思いっきり泣いた午後

ケンケン



試合開始前の駒場スタジアムゴール裏を抜け出し駅へ向かう。
赤いレプリカを着た人達とすれ違い歩くいつもの道は果てしなく長く感じた。
頭の中にぐるぐる走馬燈



キックオフを待つ熱気に包まれた中へ家からの電話。
「ケンケンが死んだよ」
熱が一気に冷めた。


13年前、三ヶ日のブリーダーさんの所に迎えに行ったケンケンは生後二ヶ月足らずなのに大きな頭と太い手足でよちよち歩いていた。
車の後部座席に乗せての帰り道、寂しいのかクンクン鳴きながらセンターコンソールを乗り越えて膝の上に乗ってきた。
散歩に行くと柔らかい肉球から血を流していたケンケンはあっという間に大きくなった。


海が嫌いで泳げなくて
雪山が大好きでマイナス20cでもへっちゃらで
気は優しくて力持ちでソリで大人二人を軽々引っ張って


遊びに行くのが大好きで
置いてきぼりが大嫌いで


留守番が苦手で
寂しいとゴミ箱を荒らしたりソファーをかじったり


いろんな所に一緒に行ったね。


そんなケンケンが今年の夏頃から散歩中頻繁に転ぶようになってきた。何もない平らなところですてんと転んで僕を見上げるケンケンを「年取ったなぁ」と笑っていたら、階段が昇れなくなり、そして降りれなくなり、散歩の距離がどんどん短くなっていった。
ここ一週間は抱っこして外に出し体を支えて5、6歩歩くと地面に這い蹲っていた。歩けない体を支えて出来るだけ外に連れて行った。自由がきかない体でも外に出るのが嬉しくてしっぽを振っていた。


今朝もいつものようにケンケンを抱っこで外に出しておしっこをさせて抱っこで家に戻りドッグベッドに寝かせて、頭を撫でて、いつもと変わらないはずだった。浦和駅で花を買って電車に乗って家に向かった。その間何を考えてたのだろう、景色がなんだかモノトーンに見えて永遠に電車に乗り続けているような錯覚を覚えた。


リビングの真ん中のタータンチェックのドッグベッドにケンケンは横たわっていた。いつもと同じポーズで。顔を覗き込み体に触れてみた、動かない。息をしていない。滲んでいた涙が一気に流れ出した。号泣。


お迎えが近いのはわかっていたけど、いざその時が来ると「これは夢か幻なんじゃないか」と思ったり、号泣している自分がいるのになんだか宙ぶらりん。近所の人達が花を持ってきてくれるのはリアリティーあるんだけどね。


うちの三姉妹のおにいさん、長男ケンケン、やすらかに眠れ。


ケンケン
バーニーズマウンテンドッグ♂
享年13歳